「利他」でなければ仕事は広がらない。放送作家・石田章洋さんインタビュー<前編>

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石田章洋(いしだ・あきひろ)さんプロフィール
放送作家。日本脚本家連盟員・日本放送協会会員。1963年12月生まれ、岡山県出身。
プランナー&ライターズオフィス、株式会社フォーチュンソワーズ代表取締役。
日本大学在学中に三遊亭円楽(当時は楽太郎)に弟子入り。落語家になるも数年後、放送作家に転身。以来、25年以上にわたり、各キー局のバラエティ番組・情報番組・クイズ番組・報道番組など、あらゆるジャンルのテレビ番組で企画・構成を担当。
手がけた番組の合計視聴率は5万%を超える。
最近の主な担当番組は『世界ふしぎ発見!』(TBS)『TVチャンピオン』(テレビ東京)『情報プレゼンターとくダネ!』(フジテレビ)『BSフジLIVEプライムニュース』(BSフジ)など。
特に、構成を手がけた「世界ふしぎ発見!〜エディ・タウンゼント 青コーナーの履歴書」は第45回コロンバス国際フィルム&ビデオ・フェスティバルで優秀作品賞を受賞するなど番組の企画・構成に関して高い評価を受けている。
著書に『スーパー速書きメソッド』(マイナビ新書)など。

伊集院光の才能に打ちのめされて、放送作家の道へ

――経歴がとてもユニークですね。もともとは落語家だったとか。

石田 小さいころから笑いが好きだったんです。兄弟は頭が良くてスポーツもできてチヤホヤされていたんですが、何もできない僕は、家でも学校でも笑いで存在感を示すしかなかった(笑)。だから、「笑いを極めよう」と大学2年のときに、現・三遊亭円楽――当時の楽太郎師匠に弟子入りして。楽太郎師匠は「大学に通いながらでもいい」とおっしゃってくれたんですが、先代の5代目・円楽師匠に「そういうこっちゃダメなんだ! 今すぐやめて来い!」と怒られまして(笑)、その足で退学届けを出しに行きました。

――二ツ目*1まで行かれたそうですね。

石田 4~5年で二ツ目※までいったんですが、僕が入って2~3年目にすごくうまい弟弟子が入ってきまして。「三遊亭楽大」という、とにかくデカくて太っている男で……それが今の伊集院光です(笑)。「どうせやるなら日本一を目指そう」と思っていたのに、たったふたりしかいない弟子の、弟弟子のほうが圧倒的にうまい。「これはダメだ」と諦めましたね。そんなときに楽太郎師匠が、「お前は話すのはヘタだけど、書くものは面白いから」と放送作家の事務所を紹介してくださり、今に至るわけです。ただ当時は、書くのは好きだったんですが、アイディアを考えるのが大の苦手で。

*1 二ツ目:「前座見習い」「前座」に続く、落語家の階級。次が最高の「真打ち」。寄席で前座の次、2番目に高座へ上がることからこの呼び名に。

――放送作家といえば、「書く」と「アイディア」が2本柱ですよね。その片方が苦手というのは、致命的だとは思われませんでしたか?

石田 当時はもう結婚していたんです。ネコも飼っていましたし、妻も妊娠していましたしね。落語家に続いて放送作家までやめたら生きていく術がないですから、苦手を克服するために、企画についての本を100冊以上はむさぼり読みました。……いや、100冊は言いすぎかな(笑)。1年ぐらい焦って、もがいて、追い詰められていたときに――今回の著書でも書いたんですが――「話題になって視聴率も取れる画期的な教育番組をつくれ」という無茶ぶりともいえる難題をすべてクリアする企画(『英会話体操 ZUIIKIN’ENGLISH』1992年/フジテレビ)を思いついたんです。

「苦手を克服して得意に」「もともと得意」のノウハウが詰まった真骨頂

――そこからはもう、泉のようにアイディアが沸く状態に?

石田 一度ひらめいたことで、思考回路が開いたというか。それまでにさまざまな本を読んで蓄積されていた知識や、もやもや考えていたものが、一筋の道のようにつながったんですね。アイディアが浮かぶまでのスパンは、どんどん短くなっていきました。今では会議にも「どう?」なんて言いながら遅れて登場して、みんながああでもないこうでもないと言い合っているところに「じゃ、こうしたら?」と解決策を出せるぐらいにまでなりましたね(笑)。

――アイディアの生み出し方について書かれた『インクルージョン思考』と、『一瞬で心をつかむ文章術』。この2冊は、苦手を克服して得意になったもの、もともと得意だったもの、そして放送作家という職業からも、石田さんの真骨頂といえますね。

石田 本を書くために改めて自分のやり方を整理したわけではなくて、もともとここに書いた方法や順序に沿って、アイディアを出したり文章を書いたりしていたんです。ですから自分で言うのもなんですが、かなり実践的な内容ではないかと。ここにある手順を踏みながら考えたり文を書いたりしていくうちに、やがてショートカットされて、ひらめきや完成までのスピードが早まるはずですよ。

「利他」でなければ仕事は広がらない

――現在は放送作家のほかに、ビジネス書の作家、さらに文章講座の講師としてもご活躍されていらっしゃいますよね。仕事が広がったポイントはなんだと思われますか?

石田 割合的には放送作家が8、作家が2。講師は「仕事」と呼べるかどうか、という程度でしょうか。仕事をする際には「目の前のことを一生懸命すること」、そしてこの本にも書きましたが「利他であること」。このふたつが基本です。

――確かに書かれていました。ただ、個人的には「人のために」で本当にうまくいくのか、そこだけが半信半疑で(笑)。

石田 利他でないと、ダメですね。そもそも、人間の歴史が利他で成り立っているんです。『世界ふしぎ発見!』(TBS系)の仕事で調べたんですが、もともと人間はアフリカのジャングルの中で生活していたんです。ところが、地殻変動で気流が変わり、乾燥でジャングルがなくなってしまった。自然災害や他の動物などから人間を守ってくれていた森がなくなったことで、人は社会をつくって互いに助け合うようになったわけです。「マンモスの肉を独り占めしてやろう」って人は、はじかれちゃう。「誰かのために」「誰かの役に立とう」という行動によって、人間や社会は進化してきたんです。

――脈々とした利他の歴史が。

石田 テレビであれば視聴者のことを、本であれば読者のことを考えるのが当たり前。自分のためではなく具体的な誰かのために何かをするほうが、発想もパワーも広がりますしね。たとえ自分の手柄にならなくても、見ている人はちゃんと見てくれていますし。人のために何かをすれば、必ず自分にも返ってきますしね。こう言うと「利己じゃないか」と思われてしまうかもしれませんが(笑)、「情けは人のためならず」です。どんな仕事でも、出発点が「誰かを喜ばせたい」という気持ちであることが大事だと思いますね。

(後編に続く)

文:細井秀美